お待たせしました。
こちらの記事の後編です。
本来は1本の記事で書ける内容だと思ってたのですが、肝心の八百長疑惑の部分を調べてると、自分が14年間信じ込んでた「疑惑」が単なるウワサに過ぎなかったことがわかり、それで詳しく調べていたために後編が遅くなってしまいました🙏
前編で書いた通り、タイは日本の試合結果次第で五輪出場を逃す状況にあり、最終的に日本がセルビアに2-3で敗れたことで、タイは五輪出場を逃しました。
この最終戦の日本vsセルビアを巡り、タイ側から「八百長ではないのか」という疑惑が持ち上がりました。
なぜ、タイはそこまで日本を疑ったのでしょうか。
そして、本当に日本には「わざと負ける理由」があったのでしょうか。
当時の報道と五輪の組み分けを改めて調べてみました。
タイ側は何を疑ったのか
試合後、タイバレーボール協会は日本vsセルビア戦についてFIVBに報告しました。
タイ代表のキャテポン監督も試合を見ており、日本が「普段の水準以下でプレーしていた」という趣旨の発言をしています。
さらに、
「何が起きたのかは言いたくないが、見ていた人なら分かるだろう」
という趣旨のコメントも残しています。
つまりタイ側が疑問視したのは、単に「日本が負けた」という結果だけではありません。
日本は第3セットを取った時点で五輪出場を決めていた。その後、セルビアに逆転を許した。
この展開が、タイ側には不自然に映ったのです。
「日本は本当に最後まで勝つつもりだったのか?」
それが疑惑の出発点でした。
「日本は2-3を選んだのでは?」という疑惑
タイ側から見れば、非常に悔しい状況です。
日本が勝っていれば、タイも五輪に行けました。
ところが日本は2-3で敗戦。

この結果なら、日本自身は五輪に出場できます。
一方で、タイは敗退します。そのためタイでは、
「日本は自分たちが五輪に行ける範囲で、あえてセルビアに勝たせたのではないか」
という疑念が広がりました。
当時のタイメディア『The Nation』も、タイのバレーボールファンの間で「日本は意図的に2-3で負けたのではないか」という声が広がっていたと報じています。
そこには、タイのファンやSNS上で広がった、とある「動機の推測」が含まれていました。
「日本は死の組を避けた」という説
その推測が、
「日本はセルビアに勝つと、ロンドン五輪で強豪だらけの組に入ってしまう。だからセルビアに負けたのではないか?」
という説でした。実際に14年間もの間、自分が信じていたのもこの説です。
現にロンドン五輪のPool Bは、
- アメリカ
- ブラジル
- 中国
- セルビア
- トルコ
- 韓国
という強豪揃い。一方、日本が入ったPool Aは、
- イギリス
- 日本
- イタリア
- ロシア
- ドミニカ共和国
- アルジェリア
でした。確かに、Pool Bは「死の組」と呼ばれてもおかしくない組み合わせです。
しかし、ここで一つ大きな疑問が出てきます。
もしセルビアではなくタイが五輪に出ていたら、日本はPool Bに入ったのでしょうか?
実際に組み分けを計算し直してみました。
組み分けを再計算すると、話が変わる
2012年ロンドン五輪の女子バレーは、世界ランキングを基にしたサーペンタイン方式で組み分けされています。
総当り+決勝トーナメントという国際大会ではほとんどこの方式を用いていえ、開催国のいるA組に世界ランク1位や2位が入らないようになっています。
そこで、セルビアをタイに置き換えて同じ方式で再計算してみます。すると、
Pool A
イギリス
日本
イタリア
ドミニカ共和国
トルコ
アルジェリア
Pool B
アメリカ
ブラジル
中国
ロシア
タイ
韓国
となります。
あれ、タイが五輪に出場しても、日本はPool Aのまま!!😱
つまり
セルビアが出場しても日本はA組。
タイが出場しても日本はA組。
日本自身のプールは変わりません。
しかもタイが入った場合、セルビアに代わってロシアがB組へ移動するため、B組はアメリカ、ブラジル、中国、ロシアというさらに強豪揃いの組になり、なんなら当時はまだ今ほどの強さではなかったトルコがこっちに来るので、ロシアに比べたらむしろそっちの方が好都合だったかもしれません。
したがって、
「日本が死の組を避けるためにセルビアを選んだ」
という説は、実際の組み分け方式を検証すると成立しないんです。
だからこの記事を書こうと思った時点で、一番メインの八百長と言われていた部分が崩れてしまったんですよね…

「死の組説」はどこから出てきたのか
では、なぜそんな説が広がったのでしょうか。
当時の『The Nation』の記事には、非常に興味深い記述があります。
そこでは、
「日本が五輪で楽な組を確保した」という情報がSNS上で広がっていた
と報じられています。
さらに、
「それが日本がセルビアに負ける理由だったのではないかと、バレーボールファンが推測した」
という形で紹介されています。つまり、確認できる同時代報道を見る限り、
「死の組回避」はタイ協会の正式な主張というより、ファンやSNSから出てきた推測だった
と考えるのが自然です。
自分もその推測を鵜呑してしまっていたのかもしれません。
五輪の組分けはサーペンタイン方式というのは当時も知っていましたし、考えればすぐに分かることだったのに、当時自分はどう思ってたのかをXを遡ってみましたが、見つかりませんでした。
FIVBの調査結果は「八百長の証拠なし」
タイ側からの申し立てを受け、FIVBは調査を行いました。
日本とセルビアの両協会から報告を受け、現地で試合を見ていた関係者からも話を聞きました。
そしてFIVBが出した結論は、
「八百長を証明する証拠はない」
というもので、日本が故意に負けたとは認定されていません。
もちろん、これでタイ側の疑念が完全に消えたわけではありません。
タイ国内ではその後も反発が続き、ファンが日本大使館に抗議の手紙を送るまでに発展しました。
それほどタイにとっては大きな出来事だったのです。
ただしFIVBも大会方式には問題を認めた
興味深いのは、FIVBが単純に「何も問題はなかった」としたわけではないことです。
FIVBは、当時の大会方式と最終戦を巡る状況が、八百長を疑わせるような状況を生み出したことを認めています。
そして、そのような疑惑が生じにくくなるよう、今後の五輪予選方式を見直していくと発表したようです。
つまりFIVBの結論は、
「日本が八百長をした」ではない。
しかし、
「八百長を疑われるような大会方式だった」
ということでもありました。
ちなみに大きな声では言えませんが
FIVB的にも日本が負けてセルビアに五輪に出てくれたほうが都合が良かったのでは?
なーーんて思わないこともないです。だってそうじゃないと五輪のPool Bが本当に死のグループ過ぎますもん笑
ちなみにこれも大きな声では言えませんが、以後日本とセルビアでこのときの貸しのようなものを返してもらったような出来事があったのではないか?と勘ぐるような出来事もありました。
それは本題からそれますので、また機会があれば…
結論ーここからは個人の感想ー
ここまで調べたうえで、個人的にはタイ側の気持ちは理解できます。
自分たちが最後のキューバ戦に勝ち、あとは日本がセルビアに勝ってくれれば、初めての五輪に行ける。
ところが、日本は2-3でセルビアに敗れました。
しかも日本は第3セットを取った時点で、すでに五輪出場を決めていた。
タイの選手やファンが「本当に日本は最後まで勝つつもりだったの?」と疑いたくなった気持ちは、決して分からなくはありません。
ただ、その一方で「そもそも論」もあると思います。
タイは同じアジア枠を争う日本・韓国に1セットも取れずに負けた(なんなら20点取るのがやっとだった)わけで、日本-セルビア戦の結果を待たなければ五輪出場を決められない、
他国の結果に委ねざるを得ない状況
でした。もちろん、それ自体が悪いわけではありません。
スポーツでは、最後に他チームの結果を待つことなど珍しくありません。
だから「他力本願だったタイには抗議する資格がない」とまで言うつもりはありません。
もし本当に不正が疑われるのであれば、どのチームであっても調査を求めるのは当然です。
ただし、今回のケースではFIVBが調査した結果、八百長を裏付ける証拠は見つかりませんでした。
そうであるなら、
「タイが五輪に行けなかったのは、日本がセルビアに負けたからだ」
と考えるのは少し違うのではないでしょうか。
だから個人的には、
タイが日本戦を疑った気持ちは分かる。
抗議したことも理解できる。
でも、最終的に五輪出場を逃した責任まで日本に求めるのは違う。
これが一番しっくりきます。
そして何より、「日本が死の組を避けるためにセルビアを残した」という説については、実際の五輪の組み分けを計算してみると、日本はタイが出場してもA組のままでした。
つまり、日本側に「死の組を避けるためにセルビアを選んだ」という明確なメリットはありません。
八百長があったと証明されたわけでもない。
だからこそ、この2012年の一件は「日本が八百長をした事件」としてではなく、
「自分たちの五輪出場が他国の一試合に委ねられていたタイと、すでに五輪出場を決めた日本の立場がぶつかったことで、大きな疑惑を生んでしまった事件」
として見るのが、一番公平なのではないかと思います。
一応このあとのタイの五輪までの紆余曲折の道のりも紹介しておきます。
2016年リオ五輪世界最終予選レッドカード問題
4年後の2016年。タイにはまたしても不運な問題が発生します。
こちらは田中夕子氏の詳細な記事がまだ残っておりますので、こちらを貼っておきます。
この試合も現地で見てましたが、度々試合が止まるケースがあり、観客席からヤジが飛んでたのを今でも覚えています。
今でこそ状況を説明してくれることが増えましたが、当時は現地あるあるで何も説明されないから、なんで試合が止まってるかわかりにくいことがよくあったんですよね。
試合は日本が本当に五輪に行けない!という寸前まで追い込まれて、もう途中で帰りたくなってしまうくらいの試合でした笑
しかし日本にとっては神の手ならぬ神のレッドカードが…しかも2枚も。
結局日本の大逆転勝利に終わり、日本は五輪へ望みをつなぎましたが、タイはまたしてもここで涙をのむことになります。
2020年東京五輪予選が地元で開催
東京五輪のアジア予選は地元🇹🇭タイで行われました。
五輪の開催国が日本なので、日本が予選に回ることはなく、実質タイと韓国の一騎打ち。
しかし当時の韓国は現ポーランド監督のラヴァリーニ氏が率いて強化真っ只中、結局五輪本番でベスト4に入る強さで、結局タイはストレート負け。
配信で見てましたが、この大会を最後に代表引退を決めていた
ヌットサラ・プルームジット・ウィラワン・マイカ・オヌマーのベテラン組
が集まって涙していた姿にグッときたのを覚えています。
2024年パリ五輪予選
10年以上チームを引っ張ってきたベテランが抜け、世代交代がなかなか進んでいなかったタイは世界予選でも世界ランク枠にも入ることができずに敗退します。
そして2026年
そして迎えた今年のアジア選手権。
久しぶりのアジアだけでの単独予選ということもあり、この一発勝負で日本と中国に勝てば悲願の五輪出場!という状況。
ここで逃すと来年のワールドカップバレー、もしくは2028年の世界ランク3枠狙いになり、世界を相手にしなければいけません。
だからこそこの大会に賭けたところはあったでしょうね。
そして今回はご存知のようには誰かの結果を待つことなく、自分たちの力で初めての五輪出場をつかみました。
これまで何度も涙を流したタイにとって、これは何よりも大きな意味を持つ五輪切符だったのではないでしょうか。
おめでとう🎉🎉🎉
やっぱりあの頃のメンバーにもぜひ五輪に行って欲しかったけどね…
(オヌマーはコーチで、ウィラワンはVNLのときスタッフとして帯同してるのを見かけました。)



